平賀淳さんのこれから
2022年11月、全国からのアスリート20名ほどが5日間かけて、甲府盆地を取り囲む山々をつなげて、「甲斐国ロングトレイル」走った。
この「甲斐国ロングトレイル」とは、かつて平賀淳さんとその仲間が発案した、山梨県の山とその麓の街などをつないで、その魅力を発信してそれを多くの人にみてもらおうというプロジェクトだ。あちこち現場下見をしたり、机上では山梨や東京で意見交換会など行ったりしたこの構想は、立ち上げた当時は勢いよく滑り出したものの、みんな忙しくなり、最近は進度は緩やかになっていた。2020年、コロナウイルス蔓延で多くの人が自由に動けない生活を強いられた中で、僕も海外に行けなくなり、丁度良いタイミングだと思い、自分なりの甲斐国ロングトレイルを初めてつなげて走ってみた。身近な仲間と共に過去にない素晴らしい336㎞の旅ができた。このとき映像制作会社のライトアップ社に2時間に迫る映像を作ってもらったのだけど、その中で、発案者の平賀淳さんへのインタビューをもらうことができた。そもそものコンセプトや今後の展望を語る姿に僕はこれからまた平賀さんと一緒にこのプロジェクトを進めることができることにワクワクしていた。
ところが平賀淳さんはその2年後の2022年5月にアラスカで突然亡くなってしまった。僕は平賀さんとは高校時代から一緒にトレーニングをして全国を目指したり、その後も海外の山の中で撮影をしてもらったりしていて感じていたことは、タフでどんなときも何とかする男、ということだった。だから突然のお知らせは全く信じられない状況だった。それは今も変わらない。きっとどこかで生きている、撮っている、そう思わずにはいられない。
甲斐国ロングトレイル4日目。早川から池の茶屋駐車場への道。南アルプスフロントトレイルは西に南アルプス、東に甲府盆地、そして富士山。この道は長い登坂や、ロープが張り巡らされた急な上り下りが多い難ルートであるが、紅葉と、ルート上からの眺望は最高である。アスリートたちは4日目にしてさらに生き生きとしてきた。ルートが穏やかになって一息つける場所に出たとき、一緒に走っていた身延山武井坊の住職である小松上人にひとつ質問した。「人の死後ってどうなるんですか?」そうすると上人は少し考え「私もまだ勉強中ですが、みんなの記憶から消えたときが本当の死じゃないかなと思います」と答えてくれた。僕はほっとした。平賀淳さんはずっと生きている。
甲斐国ロングトレイルHIRAGA JUN CUPはこれからずっと続いていく。彼が見せたい景色をたくさんの人に見てもらおう。
山本 健一
kenichi yamamoto